2021年5月29日土曜日

リスク学とは何か【読書記録】

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ごきげんよう。
読んだ本の内容を半分備忘録的にまとめています。
今回は「リスク学入門1」です。図書館で借りました。

本の構成と特徴

 最初に専門分野の異なる4名の方がリスク学について討論しています。
 その後、経済・法・福祉・数学・環境の専門家が各分野におけるリスクについて簡潔に紹介しています。
 以下、「内容の広さ」「文理傾向」「文章の難しさ」「前提知識の多さ」について主観的に載せておきます。

内容の広さ:8(10段階)
文理傾向:理系よりの文理融合
文章の難しさ:5~9(10段階、各段落で著者が異なる)
前提知識の多さ:3(10段階)

 この本から学べる事 

 
  • リスクは今や全分野で登場するものであり、学ばずには避けられないものである。
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  • 現代にある様々な概念がリスクと結びついている。 

  • 時代に応じてリスクの考え方は変化してきたが、リスクとの戦いの歴史はとても長い。
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  • リスクは負の要素だけではなく、良い効果をもたらすこともある。
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  • ゼロリスクは不可能である。ゆえに、どれくらいのリスクまでを許容するか。

各章の概要

 基本的には気になったところをまとめているだけですが、自分の感想も感想であることを明記したうえで書いています。

共同討論

 現代のリスクについて4人の異なる分野の専門家の方々が討論しており、こちらは議事録となっています。基本的にはこんなのがあって~、こんなのもあるよね~という雰囲気ですが、時々戦います。
 NPO法人についての可能性について述べられています。
<自分の感想>
 NPOはもっと広まってもいいと思います。現在はでかいボランティアのような立ち位置ですが、政府と企業の橋渡しとしても最適なので、そのような役割を担うNPO法人がぜひともほしいです。

1章 経済学とリスク

 経済学とリスクについての関係を述べています。経済とリスクの関係は歴史が深いですが、主観に頼らない学問(統計など)が成立したのは最近のこと。
 ここでは、リスクはあるものの得をする選択ーつまり投資ーについて、どのような方法で決めているのかがグラフで論じられています。リスクとはいっても、統計からある程度結果が分かるものと、全く分からないものの二種類あり、取ろうとしているリスクがどちらかによって選択方法が変わる、という説もあるようです。

2章 法とリスク

 車と人の事故の場合、多くは車が責任を負います。この理由は「車に乗っている人はリスクを承知で乗っているからだ」としています。
 自分はこの章が一番興味深かったのですが、ここではこれまでの責任法の歴史が書かれています。最初は「ミスったらシバく」だったのが、産業革命以降、リスクを予想できるようになってから「これは明らかにまずいからダメ」に。さらに企業と消費者の格差が明確になってからは「まずいことが起きたからダメ」へ。現在は予見できないリスク=不確実性(環境問題など)が出現したことから「なんかやばそうだからダメ」へ。
 現在の責任法は環境破壊を進行させないために必要ですが、一方で根拠のない判断も容認されるという風潮を作っている側面もあります。
<自分の感想>
 この舵取りが非常に難しいですね。リスクを予想できるようになったのは人間の理性による理論の発明のおかげですが、根拠のない判断は感情に依存しています。理性による理論から成り立っている現代で、感情に基づいて判断するのは愚かではないか?と。この風潮を悪用しているのがメディアでしょう。各自気を付けるほかありませんね。

3章 リスクと福祉

 統計の始まりは保険会社といわれています。今の保険は種類や年齢によって保険料が違いますが、あれはどんな人がどのくらい悪い目に合うかを計算したうえで黒字が出るように決められています。
 そして、福祉とは強制加入の保険です。日本では年金、健康保険などがそうです。保険はリスクと密接な関係がありますから、福祉もリスクとまた関係があるわけです。
福祉国家は格差の是正も目標としていますが、明らかに今の制度では格差があります。大きな格差の是正方法としては「出生時に平等なチャンスを掴めるようにする」というものがあります。具体的には、所得の再配分のタイミングを成人以降から誕生時にするわけです。
 コミュニティは大きく分けて公・共がありますが、いわゆる村社会である共のコミュニティは、一般的には閉じているようにみられています。が、実は外に開けています。これはビスマルクの手法と似たところがあるのですが、例えば外からくる悪い人=外部リスクを警戒することがコミュニティの結束を強めているというのです。

4章 リスク解析とは何か

 一番難しい内容です。私は半分も理解できていませんが、とにかく数学的にリスク解析について解説されています。

5章 環境リスクの考え方

 現在国連憲章で「環境を保護するのに費用対効果の高い方法は絶対にとれ」ということが決められています。しかし、かつてこの憲章と人命が天秤にかけられたことがありました。それが「マラリア問題(DDT使用の可否)」です。
 環境を壊すかもしれないがマラリアをばらまく虫をほぼ全滅させられる農薬がありました。これは形を変えて利用すれば、環境をすこーしだけ壊すかもしれないが虫をほぼ全滅させる殺虫剤となります。しかし、国連はこの「すこーし」に囚われすぎて、結局マラリア病によりアフリカ等で大量の死者が出ました。なぜこのようなことが起きたのか。どうすればよかったのか。これからどうすればよいのか。そんなことが書かれています。
 この章では簡単な算数(HQ法など)によってリスクの評価法が示されています。

最後に

 現代の至る所にあるリスクについて、直観ではなく理性で考えようとさせてくれる一冊です。リスク学入門1とありますが、この後2,3,4,5とあります。それぞれの本で経済、法律、社会生活、科学技術のそれぞれとリスクとの関係について掘り下げられています。興味のある方は近くの図書館で探すかオンラインで購入して読んでみてください。

 

 
 

今回の記事はここまでです。ご観覧ありがとうございました。

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